理性を凌駕する感情 Vol. 223 |コーチングファーム コーチA

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プロフェッショナルコーチによる現場実践コラム

理性を凌駕する感情

Vol. 223 : 2010/04/08

「相談しにくい雰囲気がある。なんだか距離を感じる。」

そんなフィードバックを部下から受けたメーカー勤務のSさんは
品質管理チームのマネージャー。現在25名の部下を率いています。

彼女は、自分自身の理想のリーダー像である
“オープンで常にメンバーと同じ目線でいられるリーダー”
に近づく為に、とにかく自分から部下に沢山話しかける
という行動目標を立てました。

当初は簡単そうに思えたシンプルな行動目標ですが、
コーチングセッションを数回重ねてもSさんは前進できずにいました。

「頭ではやるべき事がわかっているのになかなか行動に移せないんです。」

Sさんの口調からはもどかしさが伝わってきます。

「自分でも、なんで声をかけられないんだろう?と疑問です。
  ある部下が何か不満を抱えていそうだな、と気付いても
  結局話しかけられずに終わることがあります。
  そんな自分に本当にガッカリします。」

私はSさんに行動に移せない原因の分析を促しました。

・部下が忙しそうだから
・自分も忙しいから
・会話のネタが無いから
・用もないのに話しかけられても部下が迷惑だろうと思うから
・フランクに話しかけるのは自分のキャラではないと思うから

どの理由に対しても、私にはどうもしっくりこない感じがします。
そこで、私は以前より気になっていたことを伝えてみました。

「どの理由も全て後から取って付けたような違和感を覚えます。
  どうも私にはSさんがどこかで部下を避けているように感じるのですが・・・
  これは私の気のせいなんでしょうか?」

Sさんはしばし沈黙。その後つぶやくように言いました。

「そう・・・なのかもしれないです。」

「普段から、周りは私が自信満々のリーダーに見えると言います。
  でも、本音を言えば私はこの大きなチームを率いていく自信が全然ありません。
  いつ部下から『あなたはうちのチームのリーダーとして失格だ』と
  ジャッジをされてしまうのか、常に不安なんです。」

話す勢いが徐々に増していきます。

「部下と話すと、彼らが抱いていたチームの現状についての不満や、
  私に対する本音などが出てくることがあります。
  そんな時は、否応なしに自分のリーダーとしての至らなさに
  直面させられます。私にとってはそれが本当に怖いんです。
  だから部下が不満そうな顔をしているのを見たとき、
  今は話しかけるべきだと理解していても、
  一方で話しかけなくて済む理由を探していたと思います。」

         ◆◇◆

自分が恐れていることを白日の下に晒す事を避けるために
無意識のうちに行動できなくなってしまうことは誰にでも
起こる可能性があります。

・明らかに体調が悪いのに病院に検査に行こうとしない。

・感触が悪かった試験の合格発表を見る気になれない。

恐れていることが自分にとって避けたい現実であればあるほど、
現実をハッキリさせることを躊躇する心理が働きます。
こんなとき、人間の脳の中では俗に“感情脳”と呼ばれる
大脳辺縁系が活発に活動しています。

大脳辺縁系は、好き/嫌い、安心/不安などの感情を司ります。
そして、危険に直面しても生き延びられるよう恐怖や不安に対して
闘争か回避の反応を呼び覚ます働きがあります。

一方、感情脳に対して“理性脳”と呼ばれる大脳新皮質は
状況判断や問題解決などの合理的な思考を司っています。

感情脳と理性脳は相互に影響を与え合いながら
取るべき行動の選択や決断を行っています。
しかし、不安や恐怖などの危機を感じる緊急事態では
しばしば感情脳は理性脳よりも強い影響力を持ちます。

Sさんの場合、部下との会話の中から『リーダー失格』の現実に
直面することこそ最も避けたい現実でした。

その恐怖心が感情脳を活性化し、
理性脳の下した「話しかける」という選択を
「部下との会話を回避する」という選択に
上書きしてしまったと説明できます。

ちなみに感情脳は、回避が不可能な緊急事態の場合は闘争を選択します。
実際、Sさんは部下との会話の最中に口調がキツく早口になることも
課題でしたが、これは闘争の反応が働いた結果です。

まずは自分自身を守ることが生物の本質ですから
この脳のメカニズムはある意味合理的です。
しかし、現実の世界でそのメカニズムが必ずしも
合理的な結果を生むわけではないということが問題です。
まさに今回のSさんのケースのように。


ではどうすればいいのか。


その為の一歩は、Sさんのように
「自分が本当に恐れていること、避けたいことは何か」
をはっきりと自覚することです。

無意識のレベルで「恐れていることから自分を守る」回路が
働いているうちは、そこに介入することができません。
しかし、自分の恐れが何であるかを自覚することができると、
恐怖を避ける回路が働いた瞬間を捉えられるようになります。
つまり介入のチャンスが生まれるわけです。

次の一歩は、恐怖を避ける回路が働いた瞬間に
自分の思考のプロセスをトレースすることです。

無意識のレベルで行われていた逃避の回路が明確になると、
恐怖⇒回避 の間に理性で考える時間を作ることが出来ます。
理性脳の動きを感情脳が上書きしようとしたとき、
再び理性脳に主導権を握らせることができれば
自らの行動は自分で選択することが可能になります。

もちろん、これだけで恐れを乗り越えられるわけではありません。
しかし感情脳の活性化に惑わされずに済めば、
恐れとどう立ち向かうのかは全て自分次第だと実感できるでしょう。

         ◆◇◆

自分が無意識のうちに起こしている反応を自覚したSさんは
少しずつですが前進を始めました。

「最近、自分の中で部下に対する恐怖心が沸き起こる瞬間を
  自分でキャッチできるようになってきました。
  この間、部下から『ちょっと話したいことがあります』って
  言われたときに、自分の内側で恐怖心が生まれるのがわかりました。」

2週間後

「この前『あの部下とは話した方が良さそうだな』って思ったんです。
  でもその瞬間『部下はいま忙しそうだから止めておこう』と
  言い訳をして逃げようとする自分の衝動に気がつくことができました。
  その時は、『ここで逃げてはいけない』と考え直して
  思い切って話しかけることが出来たんです。」

今もSさんは取り組みを続け、着実に歩を進めています。


あなたの行動を阻害している恐れは何でしょうか?

村方仁
シニアビジネスコーチ

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