伝えるのか?伝わるのか? Vol. 219 |コーチングファーム コーチA

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プロフェッショナルコーチによる現場実践コラム

伝えるのか?伝わるのか?

Vol. 219 : 2010/03/11

皆さん、部下に組織のビジョンやミッションを伝える時にどうしますか?

・年初のスピーチで伝える
・個別の面談で伝える
・朝礼で伝える
・ビジョンやミッションを書いたカードを配って持ち歩いてもらう
・ビジョンやミッションを職場に貼り出す

上記のことを駆使して日々伝える努力をしていると思います。
では、実際にビジョンやミッションに沿って社員が行動していますか?

2006年の東証一部上場企業の社長と従業員に対するアンケート(※)によると、
社長に対して「経営幹部は理念・ビジョンを実践していると思うか」
と聞いたところ、「そう思う」との回答は61%でした。
一方、従業員はと言うと、「自分が勤める会社の経営理念を知っている」
との回答は15%と、大きな差が出ました。

実際私達の経験でも、経営層に経営課題を聞くと、
「社員がビジョンを理解していない、思い通りに動かない」ということが
挙がることが多く、社員に会社の課題を聞くと
「経営層のビジョンが見えない」という声が多く聞かれます。

私がある企業で実施した組織調査結果を経営幹部に報告したときの話です。
アンケートとインタビューの結果を総括し、
「社員が経営層のビジョンを理解していません。
  社員は『ビジョンが伝わってこない』と認識しています」と伝えると、
経営幹部は一斉に反発しました。

「そんなはずはない。年初の全社員を集めた場でも言っているのだから。」

「これだけ何回も言っていて、しかもイントラネットにも書いてあるのに、
  わからないというのは理解しがたいですね。」

「それは一部の社員の話なんじゃないですか?」

役員の皆様の反論が落ち着くのを待って伝えました。

「残念ながら多くの社員がこの認識を持っています。
  経営幹部の皆様がビジョンを伝えていらっしゃるのは
  私もよくわかっています。
  しかし、ここでお伝えしているのは『伝わっていない』ということなのです。
  『伝える』と『伝わる』、これらは別のものなんですよ。」

少し黙り込んだ後、一人の役員が質問しました。

「じゃあ、どうすればいいと言うんですか?
  何度も何度も、わかるまで社員一人一人に
  言い続けろとでも言うんですか?
  我々はそんなに暇じゃない。」

この問いに対して、私は一つの事例を使って答えることにしています。
ある企業に対して実施したリーダーシップ育成プログラムで現れた、
私達も予想しなかった成果についてです。

とあるメーカーにて、営業部長全員に対して
リーダーシップ育成プログラムを実施しました。
このプログラムの目的は部長層の知識と指導力を生かしつつ、
「相手の話を聞く」「相手の行動を促す質問をする」ということも
マネジメント手法に加えてもらうことを目指して実施しました。

この企業の営業部長層は非常に優秀ですが、
「営業社員として優秀で数字も上げてきている人が部長になっているので、
 どうしても『こうしろ』というトップダウンの指示や
 『何故出来ないんだ!』という指導が多い。
 『会社のビジョンはこう、重点商品はこれ、目標はこれ!』ということも
 朝礼などで頻繁に伝えている。しかし、実際に起きていることを見ると、
 営業社員が会社の方針通りに動いているとは言えず、
 思うように数字が上がっていない。」
という経営層からの課題に対する対応でした。

全営業部長を巻き込んだこのプログラムを実施した後、
部長達本人が意識した行動と、部下から見た部長の変化と成果を
それぞれ調査しました。

それによると、部長が意識したのは
「接点を増やす」「部下の話を聞く」「考えさせる質問をする」という、
当初の目的通りの行動だったのに対し、部下から見た部長の変化や現場での成果は、
「部長と接点が増えた」「話を聞いてくれるようになった」ことに加え、
「組織のビジョンやゴールが良くわかるようになった」ということを
大きな成果として挙げていたのです。
部長自身が意識した項目としては挙がらなかった項目です。

不思議に思ってコメントを調べると、
以下のようなものが顕著に見られました。

「部長との接点が増えて、親近感が持てた。
 以前より相談に行くようになった。」

「部長が困った顧客先に同行してくれて、一緒に対応してくれた。
 部長のやり方から学ぶことが出来た。」

「部長が『自分達はどうするのか?』など色々質問をしてくれ、
 営業についての新しいアプローチに気づくことが出来た。」

部長は今までも会社のビジョンや目標を当然伝えていました。
しかし以前と違うのは、部下との会話の量と双方向性を増やし、
信頼感や安心感を醸成したことです。

草木の種を蒔く時、耕されていない大地に蒔くのと、
耕し、肥料を入れた畑に蒔くのと、どちらのほうが多くが芽吹き、
実を結ぶでしょうか?
双方向の会話は大地を耕すことに似ているのです。

皆さんはビジョン・ミッションを「伝えている」でしょうか?
それとも「伝わるようにしている」でしょうか?


(※)『上場企業の社長・従業員を対象にした経営理念・ビジョンに関する意識調査』
   (2006年9月20日、野村総合研究所)

稲場泰子
シニアビジネスコーチ

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