グローバル化の成功を支える「信頼関係」
中国でビジネスを成功させるには、
他国と異なる難しさがあると言われています。
一党政権であることや、法の整備やインフラが
行き届いていないことなどが
その大きな理由として挙げられています。
ただ、それだけではなく、
私が企業の担当者の方とお話している際に
よく話題に上るのが、もっと個人レベルの問題としての
中国人スタッフとの「信頼関係」の築き方です。
中国に外資系企業が進出して約20年。
いよいよ大きなリターンを
期待される時期に入ってきています。
いまだ思うような結果が見えない状況下で、
課題として注目されつつあるのが、
個人レベルの「信頼関係」の在り方なのです。
現地法人組織内での部下との信頼関係、
投資先中国企業のボードメンバーとの信頼関係、
合弁会社の中国人総経理との信頼関係。
感覚的には重要だと分かっていても、
今までは現場のリーダー個人に任せてきた
この領域について、組織として現状を把握し、
具体的な対策を講じるときが来ていると言えるでしょう。
「自社のリーダーに対する不信感は、
企業の業績、離職率、社員の健康や精神面での
充足感と相関関係がある」という
調査結果も報告されています(※1)。
それでは、中国人にとっての「信頼関係」とは、
具体的にどのようなものなのでしょうか。
ハーバード・ビジネス・スクールの
Roy Y.J. Chua助教授と研究グループによる
調査結果をご紹介します(※2)。
中国本土にいる中国人シニアエグゼクティブ108名を対象に、
海外にいる中国人パートナーと
海外にいる外国人パートナーについての
インタビュー調査を行ったもので、
「信頼」に関する研究であることが気づかれないよう、
さまざまな質問項目からなるインタビューとして実施されました。
この調査の興味深い点は、「信頼」を、
「認知的信頼(cognitive trust)」と
「感情的信頼(affective trust)」の
2つに分けて考えた点にあります。
「認知的信頼」とは、『頭』で理解する信頼であり、
相手の技術的コンピテンシーなどに対して構築されるもの、
一方、「感情的信頼」とは、『心』で感じる信頼であり、
相手の幸福観や個人的な興味について
考えを共有したりすることで構築されるものです。
調査結果は以下の通りでした。
・中国人が中国人パートナーに対して抱く
「感情的信頼」は中国人以外のパートナーに比べ33%高い
・中国人同士でのパートナーシップにおいては、
「感情的信頼」と「認知的信頼」に64%の相関関係が確認された
・中国人と中国人以外とのパートナーシップにおける
相関関係は、8%に留まった
・中国人以外のパートナーとの「信頼関係」は、
外部要因によって影響を受けやすく、脆弱である
私はこの結果から、中国人との関わり方を改めて
振り返るヒントをもらったように感じました。
国籍という要素を取り除いてみると、
この調査結果は中国人の次の特徴を明らかにしています。
「認知的というよりも
感情的な信頼関係を重んじる傾向にあり、
感情的信頼は、客観的な指標による
認知信頼にも影響する力がある」
つまり、感情的信頼の積み重ねが
カギであるということです。
一方で、私たちは中国人と一緒に組織を創り、
利益を追求する中で、何を重んじてきたでしょうか。
「制度」「仕組み」「技術の伝承」といった領域に、
より資金や労力を投資してきたのではないでしょうか。
もちろん、組織としては、
今後もこういった投資は必要な領域です。
ただ、それと比較すると、
感情的信頼を得るための投資や労力は
少なすぎたのではないかと思わざるを得ません。
これまで「信頼関係」は、
感覚的には重要だと分かっていても、
個人の資質によるところが大きく
測定が難しいという理由から、
明確に経営のエンティティの一つとしては
認識されてきませんでした。
しかし、企業がグローバル化をさらに促進していくためには、
それぞれの地域、人に合った「信頼関係」を
もう一度見つめ直してみる必要があるかもしれません。
【参考文献】
※1:"The mistrust crisis" by Brian Amble
Oct 25, 2011
Copyright 2000-2012 Management-Issues Ltd.
※2:"Climbin the Great Wall of Trust" by Michael Blanding
December 19, 2011
Working Knowledge, Harvard Business School

