
組織の変革期におけるコーチングの活用
~変革に直面するリーダーに伴走するコーチの存在~
営業現場における評価制度の抜本的な改革に取り組む資生堂様。店頭の営業職の人事評価を、従来の売上げ重視の成果主義から顧客満足度を基準にするという画期的な制度を導入して注目されている。同社で経営企画部のトップとして指揮を執る末川久幸執行役員に、営業の現場におけるコーチングの活用や、エグゼクティブコーチングを受けたご感想をお聞きした。
聞き手:コーチA 取締役社長 鈴木義幸 / 2008年10月
■全国の営業部門トップ層に1対1のコーチをつける
―御社では、営業現場の評価基準を、従来の営業成績による成果主義から顧客満足といったプロセス重視の管理システムに移行されています。この大変革ともいえるチェンジマネジメントのスタート期に、全国の支店長や支社長をはじめとする営業部門のトップマネジメント層約60名に1対1のコーチをつけるという決断をくだされました。その経緯をお聞かせ頂けますか?
弊社の営業部門は、目標管理の上では何十年もの間、売上げを軸に進んできました。顧客満足をベースとするプロセス管理へ軸足をおくということは、劇的な環境変化の中にある、ということです。その中では、現場の責任者にあたるリーダーたちがみな、多種多様な課題や困難にぶつかることが容易に想像されました。
コーチングの存在自体は以前から知っていましたが、こういう時にこそ有効なのではないか、と思いました。歴史的にもはじめてといえる局面で、誰からも何も教えてもらえない。そんな時にこそ、共に伴走し、多面的なものの見方や視点を与えてくれるコーチの存在が必要なのではないか、と。
―過渡期にある組織の中で、変化に真っ向から直面するマネジメント層がいかにリーダーシップを発揮するか、という点でコーチはサポートさせていただいています。
困難な状況に直面したときに自分で考え、自分なりの方法で乗り越える。ビジネスの基礎となる「自分の型」ともいえる新しいマネジメントスタイルは、現場でのその繰り返しの中から作り出していけるものだと思っています。そして、それを作りだせる人こそが、次の世代を担うリーダーとしての人材なのではないか、と考えています。
■コーチは、リーダーシップの発揮をサポートする
人というのは、いくら研修などで「変わることが必要だ」と教えられても、そう簡単に変われるものではありません。どんなにもがき苦しんでもいい。現場で自分自身の力で試行錯誤を繰り返し、自分なりの新しい「型」を作っていく。何百人もの営業部隊をとりまとめるリーダー自身が自分の力で変わっていかない限り、会社自体も変わってはいかないでしょう。そういう意味では、このチェンジマネジメントという変革期に一緒に伴走してくれるコーチの存在は有効であると、導入をふみきりました。
―御社担当のコーチたちの話を聞くと、地域や店舗スケールによっても抱える課題やテーマは異なるようですね。これまでの管理体制との違いに、ある意味とまどっておられる方もいらっしゃるようです。
ある地域担当者は、今回の変革後、目標設定の際に必ず全店舗に顔を出すようになったそうです。そして、腹を割って話し合うそうです。このように自ら変革を起こしているところは各段に元気がいい。マネジメントの仕事というのは、どの業界であっても同じなのではないでしょうか。現場の中でトライ・アンド・エラーを繰り返しながら成長し、成功を重ねていく。「自分で試して、考え、やりきる」ということです。今回も、豊富な経験をもつコーチの人に伴走してもらいながら数多くの現場で情報を入手し、自分の力で成長していく。リーダーシップとは、そうして磨いていくしかないのだと思います。
―今回の受講者は、手上げ式にされましたね。
はい。小額ですが、金額を一部自己負担してもらっています。それは、「コーチングを活用したい」と積極性をもった人に受講してもらいたいからです。どんなに腕のいいコーチがついたとしても、コーチングを受ける側の自主性がなければ、本当の成果は出ないでしょう。それを「自己負担」という形で意識づけしたのです。
■エグゼクティブコーチングで「鏡に映った自分」を見る

―末川さんご自身のエグゼクティブコーチングについてお聞かせください。末川さんとのセッションでは通常、その時々の関心事や取り組まれているトピックについてのブレストをさせていただいています。改めて、エグゼクティブコーチングがどのような場面でお役に立っているのかを、お聞かせいただけますか?
一言でいうと、「鏡に映った自分を見る」と言うことでしょうか。社員や上司と話しているときは、仕事に関連する話が中心になりますよね。自分の考え方や、やっていることに対してフィードバックをもらえる機会は意外と少ないものです。それが、コーチ(鈴木)と定期的に会い、色々な話をしている中で「末川さんは、起こっている現象を視覚化させて考える傾向がありますね」など、自分では気づかずにいた傾向や特性についてフィードバックしてもらえる。それが正しいとか間違いなのではなく、「自分の特性」として捉え、長所にしていこうと思える。そうしたことに気づくことができる時間です。自分に対する「気づき」がいくつもありました。
また、最終的には自分で答えを出すとしても、コーチという第三者の幅広い視点から多くの情報を頂けるのは、考え方を整理する上でも非常に助けられています。
■自分の「型」は現場で試行錯誤しながらつくるもの
―末川さんは、これまで数多くの新しい試みや「イノベーション」をしかけていらっしゃいました。目の前の問題解決や発想方法には、どのようにアプローチされているのですか?
もう何年も前に受講したマーケティング・プロセスの講義がベースになっています。プロセスを学び、最後に自分の市場に照らした攻略や戦略プランを構築する、という研修でした。そこで学んだのは、まず、「10年後はどうありたいか」といった長期的視点でのイメージをベースにすることです。最初にゴールを設定し、その目標達成には何が必要なのかを見極めていく。それがマーケティングの本質だと。このゴールと現状のギャップの部分にイノベーションが起こるのです。
この思考方法で、常に何かを考えています。半分ゲームのようなものですね。「こういう風に駒が動いたら次はこうなるだろう」など、時には投資家目線で考えたりもします。様々なアプローチを単線でなく、自分からの視点、あるいは自分が見られる視点など、色々な側面から物事を考えるようにしています。こうして現場で試行錯誤しながら学び、自分の「型」をつくってきました。
ですから、若い人たちも今の自分にできることをとことん極めてやることだと思います。新人であれば、店との信頼を勝ち取る。「この人がいれば」と店に思ってもらう。それが大事だと思います。相手から信用される仕事をしっかりすることができれば、次に必ずもっと難しい課題がくるでしょう。それらを試行錯誤しながらクリアしていく。ただひたすらにそれを繰り返すことでビジネスの核となる「自分の型」ができてくるのだと思います。現場こそがクリエイティブに満ちた場所なのです。
■資生堂の強みは130年の歴史に裏打ちされた「均質の価値観」
―末川さんからは、資生堂という会社に対するロイヤリティや強い思いを言葉の端々に感じます。資生堂をどのような会社にしていきたいと思われているのでしょうか?
個人的に思うことで分かりやすくいうと、自分の子供が就職を考えた
ときに、「こんなにいい会社なんだ」と思ってもらえるような会社にしておきたい、ということです。自分が入社した時代よりも「より良い会社」にして次世代に渡したい、と。それが礼儀だと思っています。そのパスをつなぐことが自分の仕事だと思っています。
―歴史ある資生堂の「強み」とはどのようなものだとお考えですか?
社員が「均質の価値観を持っていること」です。多様性を否定するわけではないのですが、ベーシックな共通の価値レベルが均質的に高レベルにあるのではないかと思っています。それは、130年の歴史の中で、生活様式や経済環境の変遷と共に先達が支えてきたものです。高度成長期のキャンペーンやチェーン展開など、各方面で先進的なことがされてきました。そういう先達の苦労と努力、先進事例のストックが弊社にはあるのです。20年も前から中国で足場固めをしてきたこともその一環といえるかもしれません。それぞれの時代を乗り越えてきた先達が創り上げてきたこの会社には、ある程度先鋭的な文化とチャレンジ精神があるのではないでしょうか。
今の我々も、長い歴史の中の一員として10年後に「今」を振り返って、「あのときの営業改革、今では他の企業でも当たり前になったね」なんてことが言えれば、時代の中にひとつ楔を打てたことになるのではないでしょうか。イノベーションを起こしてきた会社であること、それに自分たちも参画しているのだという意識をもてることが我々の「強み」だと思っています。
■リーダーがリーダーを育て、リーダーシップを磨く組織づくり
―現在の前田新造社長の就任時には、全国の事業所を回られることも企画されましたが、今の時代のリーダーシップについてはどのようにお考えですか?
まず、社長の顔は販売会社にいる社員にもライブで見せたい。そして、双方向のコミュニケーションを起こしたいと思っています。ある時期、「オレについてこい」型のリーダーシップの時代が終わったと思った瞬間があったんですね。数年前のプロ野球合併問題のときの古田(敦也)の存在が印象的です。リーダーでありながら目線が低い。ファンを大切にする。これからは、「偉大なリーダーよりも目線の近いリーダーが必要であり、リーダーがリーダーを作っていく関係をつくっていきたい」と思いました。組織は、なんと言っても最後は「人」です。どんなにいい戦略や施策があろうと、「人」が育たなければそこに発展はありません。人を巻き込み、リーダーでありながらリーダーを育てることでリーダーシップに磨きをかける。そのような組織をつくっていきたいと思っています。
―今日はありがとうございました。
1982年資生堂販売入社後、本社マーケティング戦略室、経営企画部、コスメニティー(セルフ化粧品)事業、化粧品計画部を経て経営改革室へ異動。2003年経営企画部にて2005年からの3カ年計画立案と推進を担当。その後国内化粧品事業企画部長として改革総仕上げと次期3カ年計画を策定。2008年4月より現職。 |


