
リーダーの能力が組織のパフォーマンスを上げる
~人の話を聞き、引き出し、お互いを理解する能力をコーチングで培う~
「上司と部下の良好な信頼関係こそが組織におけるコミュニケーションの根幹であり、組織力の基盤になる」と捉え、コーチングを全社的に導入されている医薬品最大手の武田薬品工業様。同社で人事トップとして指揮を執る三好集コーポレート・オフィサーに、人材育成に対するお考えとエグゼクティブコーチングを受けたご感想を伺った。
聞き手:コーチA 取締役社長 鈴木義幸 / 2008年2月
■リーダーに必要なのは、人の話を聞き、知恵を引き出し、理解し、そして果敢に決断する能力
―御社では、人材育成を戦略の柱として位置づけられておられます。そうした環境の中で、今求められるのはどのようなリーダーだとお考えですか?
リーダーとは?という質問に答えるのは難しいですが、当社について言えば、グローバル化の急激な進展にともない、事業の意思決定は複雑化しており、リーダーが全てを牽引していくという形のリーダーシップでは対応できないと考えています。むしろ、「メンバー一人ひとりの話を聞き、その知恵、アイデアを引きだし、理解し、その中で果敢に意思決定できる高いコミュニケーション能力」によって“強いチーム”を作れる人が求められていると考えています。
―そのようなリーダーシップは育成できるものですか?
リーダーシップは開発しなくてはいけないと考えています。当然、ビジネスに対する深い見識、責任感、倫理観等が基本ですが、それらは個人的な能力であり、会社としてはそのような優秀な人材の能力を最大限引き出す仕組みが必要であり、その仕組みの中心がリーダーでなくてはなりません。最初からそのような能力を持った人もいるでしょうが、経営のトップだけでなく、会社全体にそのようなリーダーが多数いなければ、組織全体として健全に機能しません。構成メンバーそれぞれの考えに耳を傾け、その知恵をどんどん引き出し、先入観にとらわれず、真摯に受け止め理解する。そして、リーダーの責任において果敢に決断し、組織をひとつの方向に導いていくというマインドと手法が必要不可欠であり、当社では、それは「もって生まれたもの」と考えるのではなく、訓練しながら意識的に育成・開発していくべき領域だと認識しています。
―例えば、部門長レベルにもなると、熱意はもちろん、発言力も強い方たちが多いですよね。その中で会社の方向性をひとつの方向に導いていくのは本当に難しいことだと思います。
優秀な方は、それぞれ個性豊かですね。ただ、最終的にはチームとして結論を出さなければならないわけですので、そのことを全員が認識する必要があり、皆で研修を受けたりしながらチームワークの醸成に取り組んでいます。
―最近では、欧米企業がチームワークに特化した研修を取り入れたり、日本企業でもフラットな組織を改めてチーム制に戻す動きがでてきていますよね。
日本企業の多くが「個人」の能力に過度にフォーカスした時期もありましたが、今また、「能力ある個人がチームとして働くことで大きな成果が生まれる」というところに企業の意識が戻ってきているのではないでしょうか。個人的には日本人のDNAは集団の力にあると信じていますので、いい方向だと思います。もちろん、一人ひとりが優れた専門性を持った上でですが。
■管理職から若手社員まで、約2,500名の社員が「人の話を聞き、引きだし、理解する」コーチングのトレーニングを受講

―御社では、コーチング・トレーニングを管理職層だけでなく、若手社員の方にも組織レベルで導入されています。
導入当初は、希望者のみを対象としていました。しかし、「社員に元気がない」「年齢ギャップによってコミュニケーションがうまくとれない」といった声が上がった時期があり、実態を調べるために風土調査と360度評価を実施しました。その結果、上司と部下の間のコミュニケーションと、評価制度やモチベーション向上、組織のパフォーマンスには相関関係があることが分かってきました。
それをもとに、コミュニケーション力が上がり、上司と部下の間に信頼関係が成り立てば、問題の8割は解決できるのではないか、という仮説をたて、管理職全員を対象にコーチング研修の導入を決定しました。2006~2007年は、マネジャー800名、新任幹部300名の計1,100名が対象となりました。
また、上司だけでなく部下もコミュニケーション能力を高めることで相乗効果を引き出せると考え、入社3~4年目の社員に、上司との関係構築やキャリアビジョンをテーマとしたトレーニングを取り入れました。こうして、2002年以降すでに2,500名近くの社員がトレーニングを受けています。
―どのような変化が見られましたか?
最終的な成果検証はこれからですが、全社的に「コミュニケーションが重要である」という強いメッセージは伝わったと思います。また、2007年の社員調査では、上司と部下のコミュニケーション、上司の指導力の項目が数値的に向上したという結果も出ています。
―とても嬉しいお話です。
コミュニケーション能力は何もリーダーとなる人材だけに必要なのではなく、あらゆるビジネスパーソンに必要最低限の能力だという意識で取り組んでいます。今、会社全体で徹底しているのは、目標や計画を伝える場面では、上司・部下がじっくり話し合い合意してもらうこと、また部下のキャリアプランについても十分に聞き、サポートすることをお願いしています。これを成功させるために、コーチング研修を実施していますが、スキルのレベルを早く越えて、共感力にまで達すればと期待しています。そのために、引き続きどのように継続フォローしていくかが次の課題です。
■エグゼクティブコーチングを通じて、自分の思考パターンやマネジメントを再考した
―コーチAでは、集合型のコーチング・トレーニング以外にも、三好さんをはじめ数名の方にエグゼクティブコーチングを導入させていただいていますが、リーダーである三好さんにはどのように機能しているかを伺えますか?
コーチング研修を全社で実施していただいたあと、もう少しじっくり受けてみたいとの要望もあり、いわゆるエグゼクティブコーチングについて人事部でトライアルすることにし、私もお世話になっています。私の場合、コーチングを通して自分自身と向き合う習慣ができたことが何よりの成果です。これまでのキャリアで築き上げてきた思考パターンやマネジメント方法が絶対ではないこと、視点を変えたマネジメント手法があることを、自分自身で考え、気づくことができました。鈴木さんにコーチしていただいていますが、基本的に質問はWhyですから、徹底的に自分に問い掛けるようになりましたね。
そういった点で私自身は非常に大きなインパクトを受けています。組織にとってメリットが出ているのかについては、周囲の人による評価が必要なので私としては何ともいえませんが、、、、。ただ、昇格などでプレイングマネジャーという立場から脱却し、拡大した責任範囲のもと、より幅広い視点で全体を把握しながらマネジメントすることを求められるような時期がありますよね。そのような時には、一度立ち止まって自分のマネジメント方法、思考パターン、コミュニケーションの癖などを振り返り、マインドを切り替える時間が必要なのだと思います。
―おっしゃるとおり、これまでの成功体験から得た思考の枠を外して柔軟性を高め、創造的なアイデアを生みやすくする。そうしたことに向き合う環境を整えさせていただくのが我々エグゼクティブ・コーチの重要な役割の一部だと思っています。
■人材育成とは、相手に自分で考える時間を持たせるプロセス
これまでに積み上げてきたものへの思いや成功体験が強ければ強いほど、客観的に自分を見つめ、マネジメントスタイルを再構築するのは、ある意味大きな苦痛が伴います。エグゼクティブコーチングを通して今まさに私自身がその苦悩に直面しているところです。
以前の私は、自分のスピードに合わせて部下に厳しい言葉をかけながら指示命令するスタイルでした。しかし、今は相手の話を聞き、引き出しながら進めることを意識しています。あえて育成時間として捉え、許される限り相手に考え、提案させるようにしています。確かに自分でやるよりもスピードは落ちる場合もあります。ただ、部下自身が自分で考えて実行する能力が上がらない限り、人も組織も長期的にはパフォーマンスが下がってしまいます。要は、人材を育てるとは、その人が自分で考えて実行するスピードを上げていくことなのではないでしょうか。ある意味「我慢」の時間ですが、それは会社・組織の更なる成長のためには必要な時間として捉えています。
―まさに、これまでに築き上げてこられたご自身のマネジメントスタイルを大きく変え、会社の総力をあげて次世代の人材育成に取り組んでおられるということですね。
次世代の人材を育成するという立場に立つと、自分自身が変化しなければならないということですね。おそらく、他の企業でも経営層の若返りの時期には必ず直面する課題なのではないでしょうか。一定の育成期間というか、リーダーにとって「こらえる」時間が。
―それは日本企業全体にいえることですか?
一概には言えませんが、年功序列制度が変わったとはいえ、幹部の大半を占める団塊世代が一斉に退き、組織が大きく若返る時期がきています。その時に次世代を担う層が十分な経験を積んでいなければ、企業運営に大きな影響がでてくるでしょう。今、当社も喫緊の課題として若手に権限を委譲することで経験を積ませ、考え、実行する機会を与えています。
―具体的には、どのように実践されているのですか?
ビジネスリーダーの育成という観点で、リーダーとなるなら必ず複数部門、自分の専門領域以外、影響力の範囲以外の部門でマネジメント経験を積むことを要求しています。社内転職により、マネジメントスタイルを「井の中の蛙スタイル」から「普遍的スタイル」に変換させる試みです。特に当社の事業の性格上も海外経験は不可欠といっております。
■日本人には、グローバルマネジャーになれる素質が十分にある
―最後に、日本全体の人材力についてはどのようにお考えになっていらっしゃいますか?
最近、日本という国の将来に対する悲観的な話が多すぎるぐらいでていますが、 歴史的に見ても、日本人の能力を悲観するようなことは何もないと思います。また、異文化受容力も非常に高いと思います。但し、コミュニケーションのための言語力、今は英語のレベルが社会全体としてそれを阻害しているのが残念です。英語を駆使し、グローバルな競争に真正面から取り組み、経験を積めば、どんどんグローバルマネジャーが生まれてくるのではないでしょうか。国に頼れないのであれば、企業が世界と伍していける人材を作っていくしかないですが、日本にはその素材はいくらでもいると信じております。
―本日は、御社のコミュニケーションに対するお考えを改めてお聞きすることができました。コーチAは、企業の発展的成長に関わる「コミュニケーション」の分野を、トータル的に支援する会社であり続けたいと思っていますし、今後もお役にたちたいと思っています。
ありがとうございました。
武田薬品工業株式会社 人事部長 慶應義塾大学商学部卒。1983年武田薬品入社。病院向け医薬品情報担当及び医薬品流通担当を経て、医薬営業本部 企画グループにて国内営業戦略を担当。2001年~2002年、米国ケロッグ経営大学院 及びUCLAアンダーソン経営大学院に留学。帰国後、医薬営業本部 企画グループマネジャーを経て2004年人事部長に就任。2006年 6月より 現職。 |


